目眩

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なぜか俺もテーブルに座っている。 健太郎は柊くんと仲良くなったみたいで、さっき来た他の子供たちとも楽しそうに話をしている。 始めてみた。 こんな楽しそうな健太郎。 子供は、こうじゃなきゃな… 男は俺一人。 俺はテレビを見ないからよくわからないが、女優さん? 見たことがあるような… でも、名前は知らない。 「美結ちゃんが殿方をこの家に入れるなんて。 驚き! 初めてじゃなーい? 何? 美結ちゃんのいい人?」 なんと! すっげーいいパス。 でも俺は、そんな顔はしない。 滑らかに微笑むだけ。 「そんなこと… 健司さんに失礼だわ。 今日のお料理、健司さんが作ってくださったの。 お料理を教わりたいと思ったら作ってくださったのよ。」 いえ。ぜんぜん失礼じゃないですけど… 「まあ! お料理を作るお仕事をされているの?」 俺に興味津々な、名前を聞いたけどよくわからない女優さん。 「はい。 もともと板前で… でも今はチェーン展開している店の経営の方に力を入れていて。 今日はひさびさに包丁を握って楽しかったです。」 一口食べるごとに「おいしーい!」と感動の声を上げる。 食レポでもやってるのか? 時々、うちの店にもテレビの食べ歩き番組がやってくる。 その放送を会社のテレビで見るのと同じ感じだ。 でもこんなに楽しい食事は久しぶり。 健太郎も嬉しそうだ。 やっぱいいな… 俺の料理を囲んで楽しい食事に、みんなが笑っている。 こんな光景に助けられて今まで来たんだ。 忘れかけていた大事なことを思い出した。 食事を終えて、リビングのソファーに移動した。 美結さんは片付けをしている。 俺が… と言おうとしたら、それだけはダメです。と強く言うので、 俺もソファーに座っている。 「ねえ、健司さん? 美結ちゃんとはどういう関係? いい感じなんでしょ?」 いきなりの女優発言。 「えーっと… 私は… その、すごくいい感じなんですけど、美結さんが、私のことは父親みたいだと。 だから、いいんです。 いまのままで。」 そう。 変にこじらせたくはない。 あの微笑みを少し近くで感じられるだけで、いいんだ。 野の花は、 摘んでしまうとすぐに枯れてしまう。 ましてや擦れちまった俺にはその辺の造花がお似合いだ。 「お父様か… でもそれって、いい感じってことじゃない? 美結ちゃんは…ね…」
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