目眩

10/93
前へ
/304ページ
次へ
「すみません…助かります。」 子供たちは芝生の上を走り回り、まるで噴水のなかで戯れているように見える。 あっ… 健太郎が濡れた芝生で滑ったのか、思いっきりこけて立ち上がろうとしない。 俺はそばに行こうと立ち上がろうとした瞬間、 美結さんが俺の手を取った。 柔らかい絹のようなその手に触れて、 一瞬、健太郎のことが頭から消えた。 「大丈夫。 見ててください?」 と、子供たちに目をやる。 俺の心臓のざわめく音が聞こえるんじゃないかと思うくらい、たじろいている俺は… 何とか平常心を装って外を見る。 ほかの子が健太郎に気づいて近くによる。 一言二言話して、健太郎は起き上がり何もなかったかのようにまた、走り回る。 「ね?大丈夫でしょ?」 それでも、俺の手は握られたまま… 「あ、ごめんなさい!」 美結さんが慌てて手を離した。 ほんのり染まる頬。耳朶も同じ色に染まる。 あーなんて可愛らしいんだ!
/304ページ

最初のコメントを投稿しよう!

610人が本棚に入れています
本棚に追加