目眩

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健太郎がうちにきて、 「子供と住むことになったから。」 と言ったら、 「なによそれ。 子供が居るなんて聞いてないわよ! もう知らない!」 そう言って怒って帰って行った。 いいけど別に。 惚れていたわけじゃない。 お互い、欲求を満たしていただけ。 愛情なんてこれっぽっちも抱かなかった。 そもそも、香奈との出逢いは飲み屋で。 俺の修業時代の兄弟弟子が、 板前を諦めてバーをやっててその店で知り合って。 やたら飲んでて、 大丈夫か?この女… って引いてみてた。 俺はカウンターで、 ヤス… その店のオーナーだけど、そいつと話をしながらチラチラ見てた。 「よく来んの?」 聞こえないようにヤスに聞いた。 「3度目?くらいかな…」 興味があった訳じゃない。 ただ浴びるように飲むその姿が余りにも痛々しくて、可哀想に思っただけ。 男にでもフられたんだな… そう感じた。 「ちょっと! 何見てんのよ。 悪い? 女が独りで飲んでたら。」 やたら絡んできた。
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