忌まわしき記憶

2/2
前へ
/29ページ
次へ
  「教官! 助けて下さい! 教官ッッ!」 モニターから、すがるような彼女の視線が突き刺さる。 必死の形相で懇願する彼女に、俺は目を合わせる事すらできなかった。 メインカメラの映像に目を移せば、無数の敵機が彼女の機体に群がるのが見える。 『救出は不可能。自身の安全確保に努めよ』 それが、本部からの指示だった。 「教官、お願いです! 私、まだ死にたくない! 死にたくないよぉっ!」 彼女の言葉の一つ一つが、俺を殴りつけてくる。 俺の判断ミス、俺の浅慮、俺の責任、俺の……俺の…… 「怖い……怖いよっ! 教官ッ! 返事してください、教官……っ!」 「……すまん、愛流……」 「教官!? やだ、やだ! 教官! 教官――っ!」 泣き叫ぶ愛流の姿に耐えられず、俺は通信を切った。 次の瞬間、愛流の機体が白い閃光を放って爆発するのが、俺の視界に入る。 「すまん……すまん愛流……っ!」 涙で霞む視界を無理やり拭い、俺は戦線を離脱した。 俺を慕い、俺を信じ、俺についてきてくれた可愛い教え子、天見愛流。 ――その日、俺は彼女を見殺しにしたのだった。  
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加