曲がりなりにも。

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「そんな気になるなら、ちゃんと本人に会えばいいのに」 淹れたてのコーヒーを美味しそうに飲んだ真司の表情が曇る。 薄く刻まれた目頭の皺が、少し濃くなった。 「そう…なんだけどね。」 (あれ…?) 自分の脳か、心か。 どちらかはわからなかったが、確かに今、思わぬ方向に気持ちが揺らいだ。 誰かを好きになる、その理由って単純。 だから、その直感を大事にしてる―― これが俺のポリシー。 だけど。 「会わせる顔が、あまりないんだ。不出来な兄だからね…」 日に当たる紫紺の瞳は、宝石のように美しい。 さらりと黒髪が一束、額に掛かる。 (ちょっと待て俺。俺の専門はカワイコちゃんだし!こんな一回りも離れたおっさんとか…) 自信たっぷりな大人の、たまに見せる弱気とか そういう、ギャップ。 (ああ、でも……萌えたんだから仕方がないか) 時間が止まっているようだった。 ただ、突き動かされるように、お互い目を合わせながら、 キスをしていた。 「って、えぇ?カイリ君っ!?」 突き飛ばす勢いで、真司が離れた。 その骨ばった手首を掴む。 「…誰にも内緒にしてください。俺だって、これが他の人に知れたらヤバいんです」 「そんな…、だったら」 「でも、気づいてしまったから」 そう、気づいてしまったから。 この人の魅力に。 image=473584616.jpg
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