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「素直に褒めてるんです」
「…本当ですか…?」
「ええ、だから顔をあげて」
「!」
突然伸びて来た長い指で顎を持ち上げられる。
一歩たりとも隙間のない
その人との距離に落ち着いていた心臓がまた騒ぎ出した。
「い、いつのまに…」
こんな近くまで来ていたのかと言いたいのに
緊張で声が詰まって出て来ない。
「ん…?」
長いまつ毛を瞬かせたその人は私のか細くなった声に耳を貸す。
「あ、え…っと」
耳を貸すその人は私の声をどうにか拾おうと顔を近づけるけれど
それとは逆に私の声はその人が近づくたびに
小さく、また小さくなっていく。
「あ…すみません」
ついに私の鼻先にブロンドの髪がかすったところでその人はやっと私を解放してくれた。
「……」
騒ぐ胸を落ち着かせるように胸のあたりで両手を握り合わせる。
「淑女に軽々しく触るなんて軽率でしたね。
これでも礼儀作法は身に叩きこまれているんですが、どうも堅苦しいのは苦手で…」
「好奇心にあふれた貴方のような人を前にすると素で居たくなります」
気恥かしそうに頬を掻くその姿は
私の家の近所に住む男の子と仕草が重なる。
気品を纏うその姿も言葉づかいも
その仕草を見ただけで嘘なんじゃないかと思えて来てしまった。
「素で…?」
解けたように力が抜け、緊張していた肩の強張りがとれる。
「…公の場ではわきまえないといけないですからね。
宜しければ、これから時間はありますか?」
頬笑むその人の表情は少しいたずらめいている。
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