一章 黄熊と巨大蜘蛛

14/15
48762人が本棚に入れています
本棚に追加
/1502ページ
  「死にたいなら置いていきます」  忠告はした。あとは知らない。面倒になったリューティスは、村へ足を向ける。  彼女が追いかけてくる気配はない。だが──。 「────っ!?」  突如猛スピードで駆けてくる魔物の魔力を関知して、リューティスは足を止めた。この魔力には覚えがある。 (オオアカマダラグモ……!)  上級に近い中級魔物である巨大な赤斑の蜘蛛の魔力に、リューティスは振り返った。方角は北よりの東。距離はあとおよそ五十メートル。 「逃げなさい!」 「な、何だよ」  血相を変えて叫んだリューティスに、女性は怪訝そうに眉を寄せる。 「噛み殺されたくなければ、さっさと逃げろと申しているのです!」  肉食の毒蜘蛛であるオオアカマダラグモ。人を頭からばりばり食べることすらが可能な、強靭な顎を持つ。  そうこうしているうちに、赤と黒の鮮やかな体色のそいつは、木の影から姿を現した。  体長はだいたいリューティスの二倍。四メートルに到達しそうな巨体のそれは、カチカチと強靭な顎を鳴らす。 「ひっ……」  小さく悲鳴を上げて尻餅をついた女性に、リューティスは舌打ちをしたくなった。八つの黒い目が、彼女を見ているのだ。  刀を喚び、左手で構える。手間取るふりをする気も起きない。さっさと終わらせてしまおうと柔らかな地面を強く蹴った。  ──斬。  首を切り落とすが、これだけでは動きを止めないのが昆虫である。  頭が落ちきる前に、リューティスの刀は鋭い爪のついた腕を全て切り離した。 .
/1502ページ

最初のコメントを投稿しよう!