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「死にたいなら置いていきます」
忠告はした。あとは知らない。面倒になったリューティスは、村へ足を向ける。
彼女が追いかけてくる気配はない。だが──。
「────っ!?」
突如猛スピードで駆けてくる魔物の魔力を関知して、リューティスは足を止めた。この魔力には覚えがある。
(オオアカマダラグモ……!)
上級に近い中級魔物である巨大な赤斑の蜘蛛の魔力に、リューティスは振り返った。方角は北よりの東。距離はあとおよそ五十メートル。
「逃げなさい!」
「な、何だよ」
血相を変えて叫んだリューティスに、女性は怪訝そうに眉を寄せる。
「噛み殺されたくなければ、さっさと逃げろと申しているのです!」
肉食の毒蜘蛛であるオオアカマダラグモ。人を頭からばりばり食べることすらが可能な、強靭な顎を持つ。
そうこうしているうちに、赤と黒の鮮やかな体色のそいつは、木の影から姿を現した。
体長はだいたいリューティスの二倍。四メートルに到達しそうな巨体のそれは、カチカチと強靭な顎を鳴らす。
「ひっ……」
小さく悲鳴を上げて尻餅をついた女性に、リューティスは舌打ちをしたくなった。八つの黒い目が、彼女を見ているのだ。
刀を喚び、左手で構える。手間取るふりをする気も起きない。さっさと終わらせてしまおうと柔らかな地面を強く蹴った。
──斬。
首を切り落とすが、これだけでは動きを止めないのが昆虫である。
頭が落ちきる前に、リューティスの刀は鋭い爪のついた腕を全て切り離した。
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