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「僕は……」
帰りたいのだろうか、あの家に。帰りたいのだろうか、あの部屋に。
もし首都にユリアスたちがいなかったら、リューティスは帰りたいと思うのだろうか。
その答えを考えて愕然とする。──リューティスが帰りたい理由は、ユリアスたちが首都にいるからであって、あの家にも部屋にも帰りたいとは思っていない。
産みの親に会いたいと、旅に出てから一度も考えていない。陛下──自らが仕える主に会いたいとは思った。だが、産みの親に会いたいとは思わないのだ。
戦仲間にも会いたいとは思う。しかし、わざわざ会いに行きたいとまでは思わない。
リューティスが保ち続けたいと思う絆は、ユリアスたちとだけであり、それ以外はどうでもいいものだったのだ。
こんなに無感情だったのかと、愕然としたのだ。帰りたいと思っていたはずだった。──それが、ユリアスたちと会いたいがためだけだったとは。
気がついたら足が止まってしまっていた。あれだけ行き交っていた人波も消え失せ、ぽつりと道端に取り残されていた。
どうにか歩を進めたどり着いた宿。フィーたちがいる部屋の扉を叩くとヤエの声が答え、扉を開けた。
「あぁ、リュース遅かっ……」
ヤエの声が途切れた。そして彼はなぜか顔を歪め、近寄ってきた。乱暴に頭を撫でられる。
「……フィー。戸締まりしといてくれ」
「あ、あぁ、うん……」
フィーの生返事が聞こえた。しかしそちらを見る間もなく、リューティスは腕を引かれ入ったばかりの部屋から外へと連れ出されたのだった。
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