七十九章 いつか、また

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  「代金はいらん。奢られろ」  革袋に手を伸ばす前にヤエが拒否した。どうすべきかと考えるものの、代金を差し出したところで彼が受けとるとは思えない。 「……すみません」  謝罪を口にしたリューティスの頭をまた乱暴に撫で回し、ヤエは豪快にエールを呷った。 「それで、それがどうしたんだ」 「……ただ自分が無感情な人間であると気がついてしまっただけです」  ヤエは片眉を跳ねあげた。 「無感情? むしろ当たり前のことだろう」  彼の言葉が理解できず、首をかしげる。  そこにフィーが現れ、リューティスを挟んでヤエの反対側に座った。 「首都にいた時間が短かったなら、愛着なんぞわくわけがない。親とだって仲がいいんじゃないんだろう? ……もしそれが、お前の育ての親だったならどうだ」  ヤエの言葉に思い浮かべたのは、今は亡き育ての両親と、十年ほど前からの記憶を失った元ギルドマスターの姿。  もし、彼らが健在で、リューティスの帰りを首都で待ってくれているとしたら、どう思うのだろうか。 「…………帰りたい」  心が叫んだ。捻り切られようとしているかのように、胸が痛い。  ──会いたい。あの笑顔が見たい。声が聞きたい。また名を呼んでほしい。あの頃のように。  一番幸せなのは今かもしれないと思っていた。しかし一番幸せだったのはいつだろう。 .
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