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「お前は、……いや」
何かを口にしようとしたヤエが、言葉を切る。首を振って僅かに目を伏せ、彼は再び口を開いた。
「お前はどこで過ごしてたんだ?」
「……“月の光”に自室があります」
ヤエが目を見開く。意外だったのだろうか。
「“月の光”に部屋が貰えるなんて……。まあそれはいい。一応、帰る場所はあるんだな」
「えぇ」
誰もいない、何もない、ただ寝台と衣装棚しかない部屋であるが、それでもあれがリューティスの居場所である。
「待っているやつがいるんだろ?」
「……えぇ」
隊の者たちの顔が思い浮かぶ。リューティスが帰るまであの座は空席だ。
「帰りたいとは思わないのか」
──彼らはリューティスの戦仲間だ。彼らにとってリューティスは上司であり、決して友人などではない。
「……わざわざ帰りたいとは思いません」
彼らの顔と同時に思い出すのは、鮮明な赤色。そしてあの戦場の臭いと音の群れ。
「なぜだ?」
「……彼らは仲間であって友人ではありません。仕事上の付き合いしかありませんでした」
数ヵ月前まで、彼らはリューティスの素顔すら知らなかったのだ。
「……彼らと会うと、戦場を思い出します」
戦いに生きてきたことに後悔はしていない。生きるにはそうするしかなかったからだ。
それでもリューティスは戦いが好きになれなかった。人を、魔物を殺める度、罪悪感を覚え、感情を御しきれなかった。
殺さずにどうにかする方法はないかと考えた。しかし、多くを救うために、殺めてきた。
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