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「……過去のことは関係ありません」
首を振り自嘲する。
「今ようやくわかりました。……僕は帰るのが怖かったのですね」
両親に会いたいと思えない理由が、ようやく理解できた。戦仲間たちに会いたいと思わないのは、戦を思い出すからだろう。
首都には楽しかった記憶もあれば、辛かった記憶もある。だからこそ複雑な感情にかられ、混乱していたのだ。
その原因に思い至り、虚無感に襲われる。──彼女はもう、リューティスの隣にはいない。
「怖い?」
黙って会話を聞いていたフィーが、不思議そうに訊ねてくる。
「……居場所が消えている気がしたのですよ」
本当に自分の居場所が残っているかは、首都に帰らなければわからない。リューティスは自分の居場所が残されていることを、信じるしかないのだ。
「なんでそう思う」
エールに口をつけたヤエから疑問を投げ掛けられた。
「……あの家、……いえ、彼らの間に、僕の想い出はほとんどありませんから」
リューティスが産みの親と共に過ごしたのは、四歳の頃まで。リューティスの弟が彼らと共に過ごした年月の方が明らかに長く、あの村から持ってきた想い出の品の数々に、リューティスの想い出の物はない。
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