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黒大鹿の解体を済ませ、疲れきった冒険者たちを連れて街に帰ったのは、正午を過ぎたところであった。
誰一人として欠けることなく帰還したリューティスたちを、街の人達は暖かく迎え入れてくれた。
再会を喜ぶ人達の集団から一人抜け出て、リューティスが向かった先はギルド“虎猫の宴”。
フードを外してから、ドアベルを鳴らしながら扉をあけて中へ足を踏み入れたリューティスに、音を立てながら立ち上がった受付の女性。
「あんた、無事だったのか」
駆け寄ってきて、リューティスの身体をぺたぺたと触る女性に、戸惑う。その顔にはあの晴れやかな笑顔はない。
「え、えぇ……」
一歩退こうとすると、左腕を掴まれてしまった。避けようと思えば可能であったが、なぜかそれは憚られて、大人しく捕まる。
「怪我はないのかい?」
「……えぇ、特には」
リューティスは擦り傷一つ負っていない。冒険者たちは多少の怪我をしている者もいたが、皆大したことはなかったはずである。
「……そうか」
ようやくあの笑みを浮かべた女性の頬には、小さなえくぼができていた。
「他の奴らはどうした? まさか──」
一変して顔を青ざめさせた女性に、首を振る。
「門のあたりで騒いでますよ。全員無事です」
この街に家族がいる者もいるのだろう。暫くは騒いでいそうだ。
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