十一章 黒大鹿と冒険者

2/17
48739人が本棚に入れています
本棚に追加
/1502ページ
   黒大鹿の解体を済ませ、疲れきった冒険者たちを連れて街に帰ったのは、正午を過ぎたところであった。  誰一人として欠けることなく帰還したリューティスたちを、街の人達は暖かく迎え入れてくれた。  再会を喜ぶ人達の集団から一人抜け出て、リューティスが向かった先はギルド“虎猫の宴”。  フードを外してから、ドアベルを鳴らしながら扉をあけて中へ足を踏み入れたリューティスに、音を立てながら立ち上がった受付の女性。 「あんた、無事だったのか」  駆け寄ってきて、リューティスの身体をぺたぺたと触る女性に、戸惑う。その顔にはあの晴れやかな笑顔はない。 「え、えぇ……」  一歩退こうとすると、左腕を掴まれてしまった。避けようと思えば可能であったが、なぜかそれは憚られて、大人しく捕まる。 「怪我はないのかい?」 「……えぇ、特には」  リューティスは擦り傷一つ負っていない。冒険者たちは多少の怪我をしている者もいたが、皆大したことはなかったはずである。 「……そうか」  ようやくあの笑みを浮かべた女性の頬には、小さなえくぼができていた。 「他の奴らはどうした? まさか──」  一変して顔を青ざめさせた女性に、首を振る。 「門のあたりで騒いでますよ。全員無事です」  この街に家族がいる者もいるのだろう。暫くは騒いでいそうだ。 .
/1502ページ

最初のコメントを投稿しよう!