十一章 黒大鹿と冒険者

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   所謂(いわゆる)応接室なのだろう。 「あぁ、来たかの」  ソファーに座ってリューティスを待ち受けていたのは、エルフの女性──ギルド“虎猫の宴”マスターのキオレである。 「お待たせして申し訳ありません」 「いや、たかが十数秒じゃ。気にするでない」  キオレの対面のソファーに腰を下ろすと、リューティスは早速報告をした。フィーを待たせているのだ。早く終わらせたい。  報酬をキオレから手渡されて、“ボックス”の中へ突っ込む。中身はどれくらいか大体予想がついている。  黒大鹿はギルドが買い取るため、リューティスは解体して“ボックス”に入れていたそれを、キオレの“ボックス”へ移し入れた。 「……結局、お主は一人で二体も倒したのか。ますますお主の本当のランクが気になるのぅ……」  リューティスのランクがAであることに偽りはない。──ただ、他の名前でそれ以上のランクを持っているだけで。 「残念ですが、僕のランクは嘘偽りなくAですよ」 「……ランク適性試験を受けさせるぞ?」  それは是非とも避けたい。リューティスは口を噤んだ。 「まぁ、お主のランクがたとえSだったとしても、知ったことではないがの」  どうでもよいとばかりに他所を向かれて、リューティスは苦笑した。ここギルドは小規模だ。この小さな街に本部を置いているのだから、支部は少ないだろう。  リューティスがこの街を出たら、おそらくもう二度と、このギルドと関わることはない。  リューティスは気まぐれにこの街に滞在している旅人だ。あと数日で去る予定である。 .
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