閑話 その手紙は その一

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  「……めんどくさい」  表情を変えぬまま呟く。金箔で華美な装飾を施された机の上、積み上げられた紙束。  一級の職人が丹精込めて作り上げた漆塗りの万年筆を握り、溜息を吐き出す。  立太子が迫ってきたとはいえ、国の書類の処理の大半をこちらに回すというのは、あのクソじじいは何を考えているのかわからない。  頼りにならない──認めたくないが──父親の顔が脳裏に浮かんで、眉をピクリと動かした。思い浮かべたくもない。自分の記憶の中のあのだらしなく緩んだ顔を、全て焼き払いたくなる。  ──誰かが、部屋の扉を叩いた。 「誰だ」 「陛下の第一騎士のヤンカです。書類を届けに参りました」  せっかく脳裏から消えかけた父親を示す言葉が耳に入ってきて、不快感が増す。だが、彼は何も悪くない。追い払うわけにはいかない。 「……入れ」 「失礼します」  扉をあけて入ってきたヤンカは、その手に大量の紙束を持っていた。どうやら、仕事がまた増えたらしい。 「……また雑用に使われているのか」 「……自分は陛下付きの騎士ですから、使い走りにしやすいのでしょう」  第一騎士というのも大変そうだ。……第一王子である自分よりかは、幾分か自由がありそうだが。 .
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