閑話 その手紙は その一

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  『前略 おひさしぶりです。あの街から離れて、早ひと月が経とうとしております。お元気でしょうか。  僕は今、デッディーの街にいます。フェンリルに会ったり、黒大鹿の討伐隊に参加したりと、忙しい日々を送っています。──』 「フェンリルっ!?」  ガイアは目を剥いた。なぜそんなものと会っているのか。彼の人生に平穏な時はないらしい。ガイアの声に第一騎士がびくりと身体を揺らした。  文章は便箋いっぱいまで書かれていた。その内容からわかったのは、彼の生活はあの座から離れたにも関わらず、忙しいものであるということだった。 『── 貴方の立太子式がもうすぐまで迫って来ていることを、風の噂で存じました。是非立会いたいと思いましたが、貴族位を持っていない僕では、難しそうです。──』  最後の方に書かれていた文章に、ガイアの心境は微妙なものであった。立太子式自体は面倒だ。しかし、彼と会えるならそうは思わない。  手紙のとおり、彼が実際に参加をするのは難しいだろう。だが、立会いたいと思ってくれたことが嬉しいのである。 「……すぐに返信を書く。デッディーまで転移ができるやつ、いないか?」 「探してまいります」  第一騎士は優雅に一礼をして去っていった。早く書かねばならない。書類処理よりも優先である。のんびりしていたら、彼はデッディーから旅立ってしまうだろう。  ガイアは机の引き出しから便箋を取り出した。 .
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