閑話 その手紙は その四

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  「……なんだ、これは」  ジパング語──東の国の言葉で、小さく呟く。畳の敷かれた自室の、文机の上に、気がついたら存在していたそれ。  右手で取り上げて、じっと眺める。  蝋で封をされた、真っ白な封筒である。裏を見てみると、見慣れた自分の名と共に、西の国や南の国、それから中央の国で使われている言語の文字で、何度か耳にしたことのある名前が書かれていた。  ──『リューティス・イヴァンス』。  確かこの名は、中央の国で暮らす銀髪の麗しき親友の昔の名であった。  小刀を“ボックス”から取り出し、手紙を口にくわえる。本来利き手ではなかった右の手で小刀を握り、封筒の隙間に差し込んで、切り開けた。  冬也は左腕がない。右目も失っている。どちらも、銀髪の親友を守った証であり、冬也にとってそれは誇りだ。  封筒から出てきたのは、一枚の便箋だった。綺麗なジパング語の文字──漢字や平仮名、片仮名で、書かれている。  久々に目にした親友の字に、自然と顔が緩んだ。  文章を目で追って、冬也は吹き出す。相変わらず元気にしているようで何よりだ。フェンリル、などという存在に、なぜ旅を始めて早々に出会うのかわからないが。 .
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