十五章 ルヴァンシューヌ公爵家の屋敷にて

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   ドラゴンの中には、長い年月を生き、人の言葉を解する個体もいる。しかし、それは、上級ドラゴンのごく一部であり、人間界に生息するドラゴンの大半は、狂暴で恐れられる存在である。 「聖蘭、急いで!」  彼の背中を軽く叩けば、彼はスピードを上げた。木々の樹冠すれすれを飛び、木々の開けた場所に出た。  そこにいるのは、巨大なドラゴンと蛇の群れと、それに囲まれた二人の人間。  暗闇に慣れた目で状況をおおよそ把握する。  一人は、大剣を手にしていた。もう一人はその後ろで足を投げ出して座り込んでいる。強い魔力の持ち主は、大剣を手にしている方だ。  赤王蛇が、大剣を持つ男に噛みつこうとしている。男は大剣を薙ぎ防ぐが、また別の赤王蛇が牙を剥いて噛みつこうと鎌首をもたげた。 「“対物理・魔法結界”」  ──無属性上級魔法“対物理・魔法結界”。  こんな上空では、リューティスが詠唱破棄をする声など、聞いている者はいないのだ。  森の中ならば警戒して詠唱するが、今はその必要はない。  ほぼ立方体の透明な結界が、二人の人物を一緒に取り囲んだ。  二人は辺りを見回す。誰が結界を張ったのかと、驚いているのだろう。  大剣の男性に噛みつこうとしていた赤い大きな蛇は、結界にぶつかって首を振るった。  槍のように鋭く尖った尾で結界を攻撃するも、リューティスの結界はその程度ではびくともしない。  ドラゴンが首を上に向けた。唐紅の瞳が、リューティスを睨み付けてくる。  リューティスを乗せた聖蘭は、結界とドラゴンの間に降り立った。 .
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