十六章 火竜と赤王蛇

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   赤みの強い褐色の身体をくねらせ、小さな飛べない蝙蝠のような翼をはためかせ威嚇する、赤王蛇。  逞しい二本の足で立ち、巨大な皮膜の翼はたたみこみ、うなり声をあげながら鋭い角を突きつけてくる、ファイアドラゴン。  暗闇に浮かび上がる赤い二種の影は、合わせて八つ。八対十六の赤い瞳が、異様に光って見える。  夜の森は、暗く静か。獣の不気味な鳴き声が恐怖を助長するのだろう。ちらりと振り返ってみた二人の男は、情けない表情をしていた。 「“蒼氷の矢”」  氷属性中級魔法“蒼氷の矢”──。  氷の矢が瞬時に形成され、リューティスの目前から飛び出していく。  ──氷属性は、通常、火属性に弱い。火属性魔物に向けて撃つと、当たる直前にとけて、さらには蒸発してしまうのである。水属性魔法ならば、魔法によっては量で勝って、一部が蒸発しながらも攻撃が届くのだが。  しかし、それがとける前に当たれば、話は別だ。火属性魔物は冷寒に強くない。冷たいという感覚は、普段感じることのない、奴らにとっては奇妙で不快な感覚なのである。  氷属性を得意とするリューティスのその魔法は、全くとけることなくドラゴンの眉間に到達した。  魔力の質が高いリューティスが、手加減することなく放ったその魔法は、頑丈な竜の鱗に弾かれることなく、突き刺さる。  ドラゴンの叫び声が、強く鼓膜を叩いた。ドラゴンが頭を振るい、前足で突き刺さった透明な矢をとろうともがく。  その隙にとリューティスは刀を抜き放った。  ──伍ノ型・刹那。  飛びかかってきた赤王蛇の一体を、一薙ぎで斬り殺す。 .
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