三十八章 手合わせ

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   眉間にしわを寄せた男は、リューティスが立ち止まるなり一言で命じてきた。 「脱げ」  なぜ、という疑問は心の中にとどめ、籠手を外し、胸当てを外し、肩当てを外し、それらを“ボックス”に仕舞い込んでから、シャツを脱いで、下着を脱ぐ。  汗まみれになった衣類と自分自身に清めの魔法をかけながら、男へと視線を戻すと、男はじっとリューティスの身体──筋肉の塊を眺めていた。 「……悪かった」  男から発せられた言葉に、リューティスは首をかしげる。謝られるようなことをされた覚えはない。 「……碌に鍛えてもない魔法師の小僧だと勘違いしていた。すまなかった」  服の上から見ただけで、リューティスの異常な筋肉に気がつくものはほとんどいない。  リューティスは手にしていた下着を身に付け、シャツを羽織り、ボタンを止めながら苦笑をこぼす。  体力のない魔法のみで戦う者は、戦場で生き残れない。魔力が尽きたら、それで終わりだからである。故に、魔法を主に使う者でも、身体を鍛える必要がある。 「……お気になさらないでください」  発した声の嗄れ方に、顔をしかめる。喉が痛い。 「……いや、その、喉は大丈夫か?」  打って変わった態度と表情に、リューティスは小さく笑う。先程までのあの怒鳴り声が嘘のように、気遣いに溢れた優しい声色だった。 .
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