三十八章 手合わせ

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  「そのうち治りま──」  喉に妙な突っかかりを感じて咳き込む。口元を手で覆ったが、咳はなかなかおさまらない。  口の中に広がる血の味を感じながら、リューティスは“ボックス”を開いた。おろおろと狼狽える男が視界の端に見えたが、気遣う余裕はない。  どこかに喉の炎症に効く飴が、僅かに残っていたはずだ。数はそれほどなかったはずだが、新しいものを作るまでは持つだろう。  ようやく見つけたそれを取りだし、小瓶に入った褐色のそれを一つ、口にいれる。苦味が一気に口の中に広がるが、気に止めない。  どうにか咳はおさまったものの、しばらくは会話にすら困りそうだ。リューティスは渋々、指先に魔力を込めて、無属性の魔力可視化魔法と魔力固定化魔法を小声でどうにか詠唱破棄した。  そのまま宙に指先を這わせて文字を書けば、それは銀の光の線となって、目に見えるようになる。  『すみません。そのうち治ります』──書いた文字は無論男にとっては鏡文字状態である。魔力を操って文字を反転させる。 「……そうか。それにしても器用だな」  もとはといえば、魔方陣魔法のための技術である。詠唱のみで魔方陣を構築するのは難しく、その補助のために作り出された技術だ。 .
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