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「これは失礼したね……。驚いたよ」
返されたギルドカードを“ボックス”に仕舞いながら、リューティスは首を横に振った。Bランクならばまだしも、ただの旅人、もしくはどこかの学園の高等部生にしか見えないであろう自分が、Aランクという強者の部類に入るランクの持ち主であると知ったら、誰だって驚く。
「いえ。……依頼は今からでも?」
「できるだけ早く済ませてほしいけど……、疲れているんじゃないのかい?」
村長の言葉に、再び首を横に振った。この程度のことで疲れるような、軟な身体ではない。鍛えに鍛えたこの身体は、リューティスが努力によって手に入れた誇れるものの一つである。
「問題がないなら、今から頼むよ。場所は村の北の方の湖の近くだ」
「分かりました。行ってまいります」
村長とシーナに家の出口まで見送られ、気を付けてね、という二人の言葉に背中を押されるように、リューティスは森に向けて足を踏み出した。
──湿った空気がひんやりと身体を包み込み、気持ちがよい。木々の葉の隙間から零れる光が踊り、リューティスは口元をほころばせた。
森は好きだ。静寂に包まれ、時折獣の鳴き声がするだけの穏やかなこの場所は、心が安らぐ。
しかし、草木を左手に喚び出した魔武器──魔力のこもった武器である純白の刀【白龍】で払いながら、リューティスはため息を吐き出した。
「気が付いていないとお思いなのでしょうか……?」
誰かがリューティスの後をこっそりとつけているのである。足を運ぶ様子や気配の殺し方、それから内包している魔力量からして、それなりの実力者であろう。
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