一章 黄熊と巨大蜘蛛

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   しかし、何が起こるかわからないのが森である。万が一のことを考えて、後をつけてくる人物に気を配っているのだが、果たして彼──もしくは彼女は、一体何の目的でついてきているのだろうか。  敵ではなさそうだと判断しているが、それはその人物が殺気をこちらに向けていないからであり、もしこちらに殺気を向けてきたら、その時点で放置するなり始末するなり、何かしらの行動を起こすつもりである。 「────あ」  橙色の可憐な花を見つけ、茎の部分を手折って摘む。カサカケと呼ばれるこの植物の小さな花は、ある流行病の特効薬の主材料となる魔草である。  魔草は魔力を持つ植物全般のことを指し、たとえ魔力を持つ木であっても魔草である。  採取したカサカケの花を、腰のバッグから取り出した小さな麻布の袋に入れて、“ボックス”の中に突っ込む。特効薬の材料はこれですべてがそろった。本格的な秋を迎える前に、作っておくべきだ。  あの流行病は、秋口から始まる。特効薬は存在するが、それが魔法薬であるために高く、なかなか一般庶民では手に入れることができない。  毎年何千という者が命を落とす病気。亡くなる者の大半は、体力のない幼子や老人であるが、それでも注意するに越したことはないだろう。  慣れた足取りで、先を急ぐ。まだ日暮れまで数時間あるが、サンダーベアのものと思われる魔力は、まだまだ遠くにある。 .
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