男三十から。

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お菓子作りの基礎なんてすっとばして、マカロンだけは叔父さんに習って作れるようになってん。 店のシンボルとも言えるあのマカロンタワーをキラキラした目でみとったあの子の笑顔がずっと残っててん。 初めて買い物してくれた時に渡した売り物にならないマカロン、受け取った時のあの子の赤くなったほっぺたとか忘れられなくて…。 そんな昔話をポツポツと話すとぷぅっと膨れた顔でいじける祥ちゃん。 「あの子あの子って。 俺は目の前におるんやで? ちゃんと今の俺を見てや!」 もう…30のおっさんにこんなこと言わすなや…。 なんてかわいらしく呟いた祥ちゃん。 いくつになっても変わらんよ。 あの頃からずっと。かわいい。 「変わらんことないよ…腰とかもう痛いし。 立ち仕事は堪えるわぁ。」 そんな自虐的な笑い話、そんなことさえも嬉しい。 「あれ、何でやろ。涙が止まらん。」 涙がポロポロ溢れてきて止まらなくて、そんな俺を祥ちゃんはそっと抱き締めてくれた。
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