男三十から。

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西池 佑介 開店前の準備中に背後から「佑介」と声をかけられた。 振り向くと微笑む祥ちゃんが立っとった。 祥ちゃんが店に立ち寄るのは珍しいことやない。 でもいつもとは違うんやと確信しとった。 「そか 大隈と付き合う事になったんやな」 「うん」 「気持ち、届いて良かったな」 「え?」 知っとったよ祥ちゃんの気持ち。 何となくやけど気付いてた。 祥ちゃんが大隈を見る時の目。 俺達に向けるものとは違ってた事に。 「佑介はわかってたんやね」 「祥ちゃん」 「ん?」 「…行くん?」 「…うん」 祥ちゃんの腕にそっと触れた。 「行くよ」 「そか…幸せになり」 「ありがと、佑介」 「あーー、俺のかわいい祥ちゃんがとうとう大隈のモンになってもうたかぁ」 祥ちゃんの背中を見送りつつ胸にぽっかり空いた穴に気付かんフリして仕事に戻る。 バラの刺がシュッと指をかすめる。 「痛…」 指先に血が滲んだ。 「何やねん、もう」 ちょっとだけ、涙が出た。
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