男三十から。

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藤村 慎二 「おはよぉございますぅ…」 誰より早く出勤して事務所の鍵を開けるのは俺の仕事。 シャッターを勢いよく上げたところでよく知った声が聞こえて振り返る。 「うわ、何やその顔!ブスやんか!」 「言わんといて下さい…」 「ぶっさ…」 明らかに寝不足みたいな顔した隆正がヘラヘラしながら立っとった。 「ほぇー、付き合うことになったんかお前ら!良かったやんか!おめでとさんやな」 「えへへ~」 「で、何でそないブスやねん」 幸せそうに微笑む隆正やけど、とにかく顔がいただけん。 「色々あったというか、むしろ何もなかったというか、何もできなかったというか…」 あ、そゆこと。 「何かヤル気満々やったのに直前でお預けで気持ちが宙に浮いたまま一晩過ごして何か体が変やねん」 変なのは顔の方やけどな。 「ま、そのうちなんとかなるやろ」 「慎ちゃん何かアドバイス下さいよぉ」 「ゼータク言うな。 想い通じたんやからめでたしめでたしやろが」 「…そっか…そやな!そうやった! 俺幸せなんやった!」 ハッと思い出したように顔を上げると急に浮き足だって行ってもうた。 単純。
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