ナッピバースデイ

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島谷 椿 誰にも言ったことはないが、大隈の店の匂いが好きだ。 コーヒーの香りに混じって古い木の香り。 ドアを開ける瞬間に触れる取っ手のくすんだ金属の匂い。 木の壁や床に染み込んだような微かなパンの香り。 時たま立ち寄ってカウンターでコーヒー飲んで浸ったりする。 そんな時はお喋り大好きなハズの大隈がそっとしといてくれる。 その日の俺の様子を見てるのか、浅煎りにしてくれたり、より薫りが立つように焙煎を変えてくれたりするんや。 そう、今日もそんな心地よい店でちょっとしたパーティー。 「うわっ、オネーチャンの匂いがする!」 店に踏み込んでいつものように胸一杯に香りを吸い込み肺を満たそうとして顔をしかめた。 「お姉ちゃん?誰のぉ?」 「あーそのお姉ちゃんじゃないから祥ちょっと黙っとって」 「? ?」 くっそ、こいつ香水つけとるわ。 たっぷりつけとるわ。 「今日は何もつけてへんよぉ? あ、ディフューザー替えたからかな クローゼットに入れとくと服がええ匂いするからぁ」 「ディ、ディ、ディ、ディフューザーやと!!」 女子か! 「大隈、今日は濃い目にして!」 こうなったらコーヒーの香りで相殺してやろうと思う。
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