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大隈行成
会話は少なかった。
皆穏やかな笑みをたたえて口数は少ない。
それぞれが何を思っているのかもわからない。
彼の想いと決意を聞いて俺はごねたし荒れたし、当初は裏切られたような捨てられた犬のような気持ちで拗ねてみせたりもした。
それで彼の決意が変わることも結果が変わることもなかった。
俺の知らない裏では拓海くんが涙ながらに訴えたりもしたらしいけど、それで覆ることがないのも皆わかっていた。
椿君が本格的に音楽の勉強がしたいと言って留学を決めたと決定事項のみを伝えられた。
いつからそんなことを考えていたのか、居心地の良い『ここ』を離れてまでこの歳で安定した今を捨てて羽ばたこうとする彼をすんなり受け入れられなかった俺は、子供のようにジタバタした。
『いつかジジイになって、やらなかった後悔を持ったまま死ぬくらいならやりきって死にたい』
と言った彼にとうとう何も言えなくなった。
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