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その村は当たり障りないとても平和な村だった。
春には木々は寒い冬から温かな日差しに照らされ目覚め始め
夏には暑いながらも皆必死に働き
秋にはすこし涼しくなり冬の寒さに備えた支度も始まり
冬には春の温かさを待ちわびながら生活していた。
至って普通の村である。
村の名を『鱗神村(ウロガミムラ)』という。
そんな当たり障りのない平和な鱗神村であったが、今年の春から不穏な噂が立ちつつあった。
『人喰い狼が村人を喰い尽くす』
『狐が村を乗っ取ろうとしてる』
『人喰い狼に手を貸そうとしてる狂った人間がいる』
『人喰い狼は人狼という、人の皮を被っている』
『人喰い狼は、村人の中にいる』
など、とにかく物騒な噂が飛び交っていた。
「まったく、誰なんじゃ。こんな下らん噂を流しおったのは……」
老人、名をホンニは集会場で深くため息をついた。
「ホンニさん、そのことに関しては同意です。こんな物騒な噂を流されては私もおちおち散歩ができないわ」
村の図書館司書をやっているサラもホンニと同じようにため息をつく。
「でもよー、なんで今になってこんな噂が流れ始めたんだろうな?明らかに急すぎはしねえか?」
村の警備中に賊に襲われ、右眼を負傷した兵士、リュートは腕を組ながらうーむ、と考え込む。
「確かに、急な噂ではあるな。しかしこの近辺で昔同じような事例があった。これは間違いなく噂ではないと僕は思うよ」
都会の大学から歴史学の調査に訪れている学者、フェルは自らの調査から導かれた答えを口に出した。
「でももしほんとに狼さんがいるなら、村は全滅、なんだよね……?」
今年15になる少女、アヤは不安そうに回りを見る。
「まー、狐も怖いよねー。僕には関係ないけどさ」
やけに淡白な少年、アロンドは一つ伸びをしたあと、眠ろうと眼を瞑る。
「あらあらアロンドちゃぁん、それは淡白すぎるわぁ……」
オカマなしゃべり方をする宿屋の主、カロルはアロンドの言葉に「こぅわぁ~い」と言いながら身体をくねらせる。
「ボクはそんな柔らかい動きができるカロルが怖いよ……」
村の家畜を一手に担ってるユカはカロルのうねりある動きに戦き顔を青くしながら少し距離をおいていた。
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