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『誰だか知らない女を送るほど、俺は優しくないんで。いいんですか? このまま彼女を放置して、変な噂でもたったら仕事に影響でますよね?』 その言葉にグッと声を詰まらせる。 それは俺も懸念していた。 だが、澄香との将来を考えるようになって、社外の女は全て縁をきっていた為、 他に手段がなかったのだ。 社内で唯一、手を出したのがこの女。 物分かりも良く大人しめな性格だから、上手く事が運ぶだろうと思って、やむを得ず誘ったのに。 今日に限って、頑なに俺のスーツの裾を掴んだまま離そうとしない。 どうしたらいい? 英司に押し付けて、俺が澄香を連れ帰るつもりだった。 苛立ちが募って、冷静な判断を鈍らせる。 そんな俺の様子を気にも留めず、英司は自分の財布から一万円を抜き、テーブルの上に置いた。 『こんな金いらねーよ!』 思わず、声を荒げた俺の前を、澄香を抱きかかえた英司が横切る。 チラッと視線だけ寄越して『お疲れ様です。』と言い、店を出て行く後ろ姿を睨み付けた。 動けないまま、ドアが閉まるのを見送る事しか出来なかった。
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