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『俺らも帰るか。』
仕方なしに話し掛けると、未だに涙目で見つめてくる様子に、心底うんざりした。
席を立とうとしたところで、また裾を引っ張られる。
『私・・葛城さんの事・・・好きなんです。』
切羽詰まった顔で告げる、瞳に視線を合わせる。
『さっきいたのが俺の彼女。元々、俺は彼女以外と付き合う事はないって言った筈だけど?』
『わかって・・ます。・・でも!好きなんです!』
舌打ちが出そうになるのを、なんとか押し込める。
もうこれ以上、苛つかさないで欲しい。
お前に構ってる暇はないんだよ。
コイツも切った方がいいな。
『じゃあ、どうしたいわけ?』
ワザと冷たい口調で言うと、震える声で伝えてきた。
『もう一度だけ・・抱いて・・・下さい。これで・最後・・に・します・・から。』
『本当にそれでいいんだな?これで最後だ。』
俺の言葉にゆっくりと頷く。
本当は、英司が確実に澄香を送ったか、今すぐ追い掛けて確認したい。
でも先程、英司が言ったとおり仕事に支障が出るのは、正直厳しい。
自分の策に溺れるなんて。
しかも自分で蒔いた種。
きちんとケジメを付けるしかない。
女を連れて店を出る。
そして今までの俺の行動全てが、裏目に出ていたと知るのは、出張から戻った後だった。
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