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何軒か不動産屋を回り、目欲しい物件を見て回る。 即日入居可で、2LDK以上ならどこでも良かった。 この際、条件なんて言ってられない。 漸く決めた物件は、多少古いながらも、3LDKで広さは十分で日当たりも良い。 職場からは離れたが、車なら通える範囲内。 勿論、今日から入居出来る。 契約を終え、自宅から組立式のベッドを解体し、新居へと運んだ。 もう一度、今の部屋の解約の旨を話す為に、管理人室を訪れる。 『葛城?翔か?』 中から出てきた人物に驚く。 『先生、お久しぶりです。』 学生時代お世話になった恩師だった。 俺と広斗が不真面目だった時、この先生だけは見捨てないでいてくれた。 うちのマンションの管理人になっていたなんて。 世間は狭いな。 引っ越す事を告げると、違約金が発生する事を説明された。 それでも構わないと言う俺に先生が、口を開いた。 『随分、急だな。何かあったのか?』 『俺、結婚するんです。』 『そうか!良かったな!奥さん、オメデタか?』 その言葉に苦笑いを浮かべながら答える。 『違うんですけど、色々あって。』 『じゃあ、違約金はいらないよ。俺からの結婚祝いとしてとっておいてくれ。』 『いや。そういうわけには。』 『俺がいらないって言ってるんだから気にするな。それでいつ引っ越すんだ?』 『今週の土曜日には出ようと思ってます。仕事も休みなんで。』 『わかった。何かあったら言ってくれ。』 『ありがとうございます!』 そう言って、管理人室を後にした。 他人から祝福されると思っていなかった分、先生の言葉は凄く嬉しかった。 俺達の結婚は誰もが望んでいる形ではない。 俺が一方的に話しを進めてるだけの話しだ。 あの部屋に澄香を閉じ込めて籍を入れる。 紙切れ一枚の関係でも、澄香を俺に縛り付けるには十分だ。 俺は間違っていない。 それだけを胸に刻み、次の場所へと向かった。
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