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ドアスコープを指で塞ぎながら待つ。
直ぐにパタパタと駆け寄ってくる音がし、躊躇うことなく開け放たれたドア。
『おかえっ!!』
おかえりか。
これから、そうやって迎えてくれるのかと思うと、勝手に口角が上がってくる。
『澄香。』
その名前を呼ぶと、分かりやすく目を見開いたまま固まった様子に、少し落胆する。
やっと会えたというのに。
『おいで、澄香。迎えに来たよ。』
なるべく優しい口調で言ったが、澄香は顔を左右に振るだけ。
どうして。
こんなにお前の事を思っているのに。
一歩、足を踏み出すと、踵を返し中に逃げ出そうとする、澄香の後頭部を目掛けて手を伸ばす。
長い髪が指に絡みつき、そのまま引っ張ると漸く、胸の中に収める事が出来た。
久し振りに、この感触を味わっていたいが、時間がない。
『ほら、帰るぞ。』
それでも抵抗を止めない澄香に苛立ちが募る。
暴れる手足を押さえつけても、必死に逃げようとする澄香の腹部に拳を入れる。
『いい加減にしろよ!』
女に手を挙げたのは初めてだった。
若干、心が痛むが構ってなどいられない。
うずくまる澄香を抱き上げ、その場を後にする。
やっと捕まえた。
俺だけの澄香。
澄香が涙を流してるのも気付かずに、浮かれた足取りで車に向かった。
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