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『英・・司・?』 呼び掛けると、目を見開き慌てて、私に着ていたシャツを羽織らせてくれた。 そのまま、英司の腕に収まる。 『澄香。ごめん。来るの遅くなって。こんな事になっていたなんて。』 そう言って、私の頬に手のひらを添える。 丁度そこは昨日、殴られた場所で、まだ腫れていた。 涙で詰まって、首を左右に振るのが精一杯。 そんな私に、また足音が近寄る。 『澄香・・ごめん・・ね・。私・・・の・せい・・だ。』 『麻衣。』 泣きじゃくる麻衣に手を伸ばし、腕を掴む。 大丈夫って気持ちを込めて、笑顔を作る。 上手く笑えてるかわからないけど心を込めて。 私に着せたシャツの釦を止めながら、英司が口を開いた。 『今のうちに出よう。澤村さんが翔さんを引き留めてるうちに。』 広斗さんも来てくれたんだと思いつつ、その言葉に首を振る。 『どうして!』 詰め寄る英司に、足首を見せる。 鎖に繋がれた足に括り付けられてる南京錠の鍵は、翔が持っている。 ここにそれを切るような物もない。 絶句した英司の首に腕を回し、耳元で囁く。 『麻衣を連れて逃げて?翔が戻ってきたら何をするかわからない。英司の顔見れて良かった。 来てくれて、ありがとう。』 『嫌だ。このまま澄香を置いていかない。連れて帰る為に来たんだ。 俺なら大丈夫。澄香と離れる方が辛い。』 私を抱き締める腕に力が籠もったと同時に、玄関の方が騒がしくなった。 翔が戻ってくる。 慌てて、英司の胸を押し返す。 『お願い!早く行って!』 私の言葉に視線を合わせると、優しく笑う英司の顔が近付いた。 『澄香。一緒にいよう?』 額を合わせる状態で、また涙が溢れ出す。 『私も澄香といる!』 そう言って、反対側に麻衣が腰を降ろした。 『もう・・。でも・・・ありがと。』 漸く言えた私に、二人とも笑顔をくれる。 心の中で、もう一度ありがとうと告げた。
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