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『俺は・・。』 静寂を破ったのは英司だった。 『俺は翔さんの気持ち、少しわかるような気がします。澄香を好きになった者同士として。 でも、翔さんのやり方は間違ってる。気持ちを確かめるような事をするより、もっと大切にしなければならなかったのは、 澄香の気持ちを信じることだったんじゃないですか?澄香は一途で軽い女じゃない。それは翔さんが一番わかってた筈です。』 『信じてた。俺から離れる事はないと。それでも、もっと俺を見て欲しいと思うのは間違ってるか?』 怒りを抑えながら翔が英司に言い放つ。 『信じるというより、驕りじゃないですか?それに裏切る事で嫉妬も生まれますが、それだけじゃない。実際の気持ちは伝わらないばかりか、 いつしか憎しみに変わる事にもなります。ただお互い、すれ違うばかりで何の解決にもならないんです。 しかも、こんな事すれば、余計に上手くいく筈はないと思いませんか?』 押し黙る翔から、視線を私に向ける。 『澄香も。翔さんを思っていたなら、誤魔化されても嘘をつかれても向き合うべきだったんじゃないか? 澄香の気持ちを伝える努力を諦めたら、ずっと翔さんには伝わらない。二人の気持ちが重なっての恋愛なのに、 お互いがぶつかるのを避けていたら、それは成立しないと思うよ。』 英司の言葉が胸に突き刺さる。 私も翔も自分の気持ちに精一杯で、相手を思いやる気持ちや信じる気持ちが欠けていた。 そんなの上手くいく筈がなかったんだ。 翔だけが悪いわけじゃない。 私にも原因があるんだ。 一度、瞳を閉じ、ゆっくり深呼吸をして口を開く。 『英司の言った通りだね。私達、五年も付き合って来たのに、大事な事は何一つ話してこなかった。 会話が足りなかったんだ。翔だけじゃなくて私も。その時から私達、きっと駄目になってたんだよ。 それに気付かない振りして、一緒にいても上手くいくはず無いのにね。』 顔を上げた翔と視線を合わせる。 『ごめんね。翔。もっと早く話し合うべきだった。』 『話してたら、何か変わってたか?』 消え入りそうな翔の声が届く。 それにゆっくり頷くと翔が力なく笑みを作る。 『澄香。悪かった。俺、本気で澄香の事好きだった。誰よりも大切だったのに沢山泣かせたし、沢山傷付けた。本当にごめん。』 翔から初めて聞いた謝罪の言葉。 ただ涙が静かに流れた。
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