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そっと翔の手が私の手に重なった。
見上げると出会った頃の様な、優しい目をした翔の視線と重なる。
『澄香。別れよう。澄香が思うように生きていけばいい。俺、お前と居れて幸せだった。今まで側に居てくれて、ありがとな。』
話す度に目が赤くなる翔に、胸が苦しくなったけど涙を拭いて向き合った。
『私の方こそ、ありがとう。翔と出会った事、後悔してないから。どうか幸せになって。』
そう言うと同時に翔の手が離され、ポケットから鍵を取り出すと、足に巻き付く鎖を外した。
『澄香、もう行ってくれ。英司、澄香を頼む。』
そのまま、洗面所に向かった翔の後ろ姿を見つめていると、横から英司の声が届く。
『澄香、立てるか?』
頷くと、英司が寄り添うように支えてくれた。
一歩一歩、玄関に歩き出す。
靴を履いて振り向くと、広斗さんと麻衣が見送ってくれる。
『俺と麻衣は残るよ。アイツの事は任せて。』
『すみません。よろしくお願いします。』
一礼すると、麻衣が笑顔を見せる。
『こっちの事は気にしないで、澄香はゆっくり休みな。』
ありがとうと伝え、ドアを閉める。
『翔、さようなら。』
心の中で呟きながら。
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