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『・・・でも。』
その次の言葉を言おうとしたところで、英司が口を挟んだ。
『もう会わないとか言わないよな?』
驚いて声を詰まらせた私に、溜め息を吐き出し英司が見据える。
『別れたばかりだからとか、都合が良すぎるとか、そういうことが理由じゃないだろ?
翔さんと話して、自分にも非があった事がわかって、翔さんに申し訳ないとでも思った?』
もう目を合わせていられなくて、目線が下がる。
英司の言った通りだった。
自分の気持ちを伝えたら最後、英司と会うのを止めようと思っていたから。
今日翔と話して、初めて本当の気持ちを知った。
浮気は許される事じゃない。
それでも一途に私を思ってくれていた。
寧ろ、裏切ったのは私の方。
翔ではなく、英司を選んだのは間違いなく私だ。
そんな私が幸せになろうなんて、翔に対して酷い仕打ちだ。
だから、どちらも手放そうと、一から一人で始めようと、翔のマンションを出てから考えてた。
『・・どう・して・・。』
呟いた私の手を英司がそっと握った。
『澄香?俺はさ。翔さんが、傷付けた人がいるからこそ、俺らは幸せにならなきゃいけないと思うんだ。』
幸せにならなきゃいけない?
言っている意味がわからなくて、視線を上げれば英司の優しい眼差しと出会う。
『確かに翔さんを裏切ったのも、傷付けたのも事実。この先、俺達はこの事を忘れることはないだろう。
だからといって、俺達が離れる事で翔さんが救われるか?違うだろ?俺が翔さんの立場だったら、余計に惨めに思う。
自分を哀れんで同情されたと。』
ハッとして息を飲む。
私、翔に同情してたんだ。
知らず知らずの内に、翔の事を下に見ていたのかもしれない。
対等に見ていたら、同情なんて感情は生まれて来ないと思うから。
バカだな。私。
もっと、翔を傷つけようとしてたんだ。
本当に最低だ。
涙が出そうになるけど、それも違うような気がして唇を噛み締めた。
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