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―暗いところは怖い。でも、明るいところも怖い。
水面からわずかに見える光を見つめながら、少女は小さく溜息をついた。少女は10歳くらいの年かさであろうか。ナマズのような魚に腰までぱっくりと食いつかれ、小さな胸には大きな白い貝殻が二つついている。
少女は透き通るような琥珀色の眼をふせると、長い髪を揺らしながらまた一つ溜息をつく。何度この動作を繰り返してきただろうか。
少女の名前はリンフィー=レーリア。彼女の種族は航海をする船を沈めると恐れられたり、不老不死の体を得られるとして捕獲されてきた人魚である。いまだその風潮は潰えておらず、彼女たちはまだこの暗い世界で生活している。
人魚はその昔、水面へ顔をだしていた。住んでいる場所も今のような暗い深海ではなく、もっと浅瀬の岩陰などだった。人魚が水面に顔を出すときに必ず聞こえるその歌声は、人間たちの癒しとなっていた。
しかし、人間が航海を始め、人魚との距離が近くなり始めたとき、悲劇が起こってしまった。
一人の美しい人魚は、水面に顔をだし、容姿に合った素晴らしい歌声で歌っていた。いつものことだった。人魚にとっては。
だが、人間にとってはそうではなかった。いつもの1キロ以上先から聞こえてくる歌声は確かに癒しとなっていた。だが、人魚が船のすぐ隣で、300メートルも離れず歌うことは、もはや睡眠薬に近いものとなってしまった。そして運の悪いことに、船員たちが寝てしまった直後嵐が起こった。
かろうじて船内にいた船員たちは歌声を直接聞いたわけではなかったから眠ってはいなかった。だが、甲板に出ていた数十名の船員たちは眠ってしまっていたため、嵐による高波にのまれ海に投げ出された。人魚はどうしようもなかった。その場には自分しか人魚はおらず、人間を助けるとなると一人しか助けられない。だがその人魚は一人でも救えるならと一人の青年を連れて必死に砂浜まで泳いだ。嵐の中、青年を連れて泳ぐその姿は船内にいた船員たちには海に引き入れていくように見えた。それが今の人魚の生活のきっかけとなる。
嵐の中生き残った船員からの話によって、人魚は恐ろしい存在として語り継がれていくこととなった。それから人魚が水面に出て歌うたび、人間は人魚のもとに行って人魚を殺すようになった。
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