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人魚たちは戸惑った。なぜ自分たちが殺されだしたのかわからなかったから。いつものように水面に出ては戻ってこない仲間。それを見に行った別の人魚は蒼白な顔をして戻ってきては繰り返す。
「人間は我々を敵とみなしたようだ。」
偶然起きてしまった嵐によって、人間を助けようとした人魚が逆に殺そうとしていたように見えたことによって、人魚は悪の存在として人間の心に入ってしまった。
殺され、連れていかれてかえってこない人魚の家族は怒りに包まれ、我を忘れ、船で沖へと出ていく船舶を沈めだした。
「わが子を返せ!できぬのなら貴様らの船を沈める!」
穏やかであった人魚は家族を失った悲しみを怒りに変え、次々と沈めていく。人間はまたそれに怒り、次々に人魚を殺していく。何度も繰り返していた時、人魚の長は言った。
「人間を許せとは言わぬ、しかしこのままこのようなことを続けていても両者得るものなどない。ゆえに、我らが引こう。人間はあの狭き陸地でしか生活できぬ。所詮沖に出ることができたとしても、嵐が起きれば脆く崩れるのだ。我々人魚は違う。どんな嵐であっても自分の身を守ることができる。ゆえに、我々が譲ろう。人間が生きていく以上、我らが再び水面にまみえることはなくなるだろう。だが、それも定めととらえてくれ。私はもうこれ以上同士が死にゆく姿を見たくないのだ。
全人魚に告ぐ、我らの住処はこれをもって深海とす。人間にまみえることのない深い世界である。そこで再び穏やかに暮らすのだ。」
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