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「どうしてなのかなぁ…。」
リンフィーは俯いていた顔をまっすぐ海中に向け、泳ぐ深海魚を眺めながらぽつりとつぶやく。
「また考えてるのか。お前も本当に飽きないやつだな。」
腰にかぶりついている魚はあきれたような声でいう。生まれた時から一緒にいるリンフィーの言葉をやれやれといった風に聞くのはいつも彼の役目だ。
「ちょーさん…。だ、だってもう200年以上も前のことなんでしょう?人間と人魚の争いがあったのは。な、なんでまだこんな暗い場所にいなくちゃいけないの…?」
震える声で今まで何度も繰り返してきた言葉を今日も繰り返す。
そしてちょーさんと呼ばれた魚はまた繰り返す。
「あのなぁ、リンフィー。何度も言ってると思うが、期限なんかないんだよ。ずっとなんだ。俺たち人魚はこれからもずっとここで暮らしてくんだ。表に出ることなんかないんだよ。」
リンフィーを悲しませたくないと思いつつも、同じ言葉を繰り返さなくてはいけないことには彼なりの理由があった。
人間と人魚の争いはまだ終わってはいない。
一部の人魚はいまだに長の目を盗んで人間の船を沈めに行くものがいるのだ。人間もまたそれに対抗している。
この少女に現実を知られたらどんなに悲しい顔をされるのだろう。せめて海の外にあこがれを持つこの少女に醜いほうを教えたくはない。そう思って彼はいつも同じ言葉を繰り返す。
「長の決めた理だよリンフィー。俺たちが逆らえることじゃないんだ。早くあきらめろ。」
幼いなりに考えることがある。だが、考えてもどうにもならないことだってある。それがリンフィーにはまだ理解できていない。海の向こう側に夢をはせるこの幼い少女の言葉にどんな期待が込められているのかを知っている彼には複雑な思いがあった。
(ダメなんだよリンフィー。どうあっても俺たちには人間と分かり合うことなんてできないんだ。)
何度も繰り返し言い聞かせ続けた。でもこの少女はなぜだか夢を捨てない。海の外に出るという夢を。
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