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『あゝ、ビックリしたぁ。覚えてましたかぁ。言い出し難くなって…私の顔を忘れてるなら知らない方がいいかなって…』
と 希春が柚多夏に向かい何故か申し訳ない気持ちになってぎこちなく言い訳を言いました。
『ビックリしたね』
柚多夏は淡々と言いました。
少し怒っているような顔にも見えましたが緊張し固まっていたようにも見えました。
店主の将彦は二人の顔を交互に見ました。そして、察したようで
『まあまあぁ?』と言いながら希春を指差し、また柚多夏を見て、指だけ希春を指して
『まあまあぁ?』
と確認しました。
柚多夏がまだ固まっていたので
希春が『まあまあ…です』
と代わりに返事をしました。
店主の将彦は大笑いしました。
希春は引きつった苦笑いになりました。
怒る気になれ無い程、恥ずかしさとバツの悪さがありました。
柚多夏だけは困惑しているようで笑えないようでした。
『希春さん、人が悪いよ。早く言ってくれよ。佐城さん、ビックリして固まっちゃうよな』
と 店主将彦は言ってからまた笑いました。
柚多夏も店主将彦の突っ込みに
ちょっと顔が緩みました。
『あんな事を言われていたら言い出し難いですよ』
と希春が言うと、
店主の将彦が
『しかし、スゲェなぁ、いやぁ~こんな偶然があるもんだなぁ』
と今度は感心したように言いました。
『よし、じゃあ、佐城さん、今日はこんな時間だ。真っ直ぐかえるだろ?希春さんを途中まで送ってやってくれないかい?』
と なぜか、店主将彦は使わなくていいような気を使いました。
気不味い空気なのに…
柚多夏は頷きました。
まだ動揺してるのか声にならないようでした。
この状況で断る事は出来ないでしょうが…
『希春さん、今日は初日で疲れたろ?ご苦労さん、女の一人歩きの夜道は危険だから、初対面でもないんだから送ってもらいなよ。さぁ帰り支度しな』
と 店主将彦が言ったので、希春は好意に甘える事にしました。と言うか頭が混乱気味だったので言われるままに帰ることにしました。
店主将彦に挨拶して
待っていてくれた柚多夏と一緒に店を出ました。
気不味いから柚多夏は少し先を歩くと思って、希春は一歩引こうとしたら、柚多夏も希春に合わせて隣りに来てくれました。
合わせてもらうなんて…
結婚前に付き合っていた彼以来の事でした。
二人は並んで歩きました。
いつも吸っている空気とは少し違うと希春は感じました。
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