プロローグ

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 有坂美優(ありさかみゆう)は、憂鬱だった。  一応はまずまずの仮面を着けるつもりではいるけれど、どうもその仮面が好きじゃない。  先日まで体調を崩していた美優は、悔しいことに、仮面を作り上げることが出来なかった。  そこで、学校の倉庫に眠っていた仮面を担任から貸してもらえたのだが、それがしっくりこないというか、相性が悪いというか、極力は触りたくないというのが、美優が抱いた第一印象であった。  タイプとしては目元を覆うマスクで、ブラックにゴールドの細かい意匠の縁が施され、片側には大きな黒い羽と花が付いている。  聞く話によると、数年前、当時生徒会長を務めていた生徒が、誰かにプレゼントと思ってオークションで落札した仮面だったらしい。  どういう経緯で倉庫で眠ったままになってしまっていたのかは、今となっては誰も分からないそうだ。  仮面自体はマエストロの技が輝く立派なデザインだけれど、妙な古びた感じがあるせいか、不気味な気すらする。  そんな仮面を、美優は頻りに眺めた。舞踏会の前日の夜、テーブルの上に出したままでベッドに入り、横になってとにかくジッと見つめていた。  今にも笑い声が聞こえてきそうなゾッとする仮面を、どうしてこんなに見つめているのか……自分で自分が分からなくなるくらい、見つめた。
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