それぞれのバレンタイン

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繋いだ手 「…ゆき、チョコ貰ってこなかったの?」 手ぶらで帰ってきた恋人に驚く。 ゆきが貰わないわけないだろうに。 「全部断った。シロのチョコだけ欲しい」 ギュッと俺を抱きしめて、そんなことを 彼は言う。 「…別に良かったのに」 「俺は良くない。 けじめは、ちゃんとつけなきゃ」 もうシロに逃げられたくない、と 過去を悔やむように呟いた。 「ふふ、それは良い心がけだね」 自分だけを見てくれるのがとても嬉しい。 自分の中の独占欲が強いと知ったのは ごく最近のことだった。 「なにくれんの?」 「ガトーショコラを作った。 美味しいかどうかは分からないけど…」 数日前から練習して作ったケーキ。 「シロの作ったもんなら全部美味い。 珈琲は俺が淹れるからケーキ用意してよ」 彼の体が俺から離れる。 抱きしめられた体温はまだ消えない。 「…うん」 ご機嫌な彼の後姿に頬が思わず綻んだ。 キッチンに立ち、お湯が沸くのを待つ彼の 垂らされた左手を俺の右手でそっと繋ぐ。 「シロ?」 ゆきが俺を不思議そうに見た。 「もう、解けないようにしようね」 硬く結ぶ必要なんかない。 少しゆとりがあったほうが、切れることも ないだろう。 「…なんか今日のシロは特別可愛い」 ヤバイよ、と言う。なんだそりゃ。 俺は「そう?」とだけ笑って返した。 end
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