目覚めのキスはいつですか

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今まで話したこともなく顔も知らなかった この鶴岡という生徒。 そして、この暖かい部屋。 クローゼットにかけられたワイシャツを 手にとり、腕を通す。 この居心地の良い部屋と同じ匂いがする それに顔を近付けた。頬が、緩む。 「会長、朝飯出来ましたよ」 低い声が俺を呼んだ。 「ーあぁ…今行く」 ボタンを留め、ズボンを履き替える。 (ネクタイは後で良いか) 「夕飯食べてないんですから、朝食は しっかり食べなきゃ駄目ですよ」 テーブルにはトマトとスクランブルエッグ とこんがり焼かれたトースト。 その横には、場違いな味噌汁が何故か 置かれている。 「…味噌汁は夕飯の残りです。 ミスマッチですがお気になさらず」 俺の視線に気が付いて、彼は付け加えた。 椅子に座って、一番最初にその違和感を 拭いきれない味噌汁に手を出す。 一口啜ると懐かしくて優しい味が胃を 満たした。鼻を抜ける出汁の薫り。 ホッとする味。 「だー…もう、俺のものになれよ、お前」 昨日会ったばかっかりなのに、お前のいる 空間に、ずっと居たいって思う俺は おかしいか? 「冗談はやめて下さいよ」 「自分でも呆れるけど、本気なんだよ」 ーだってお前が、俺を目覚めさせたんだ。 責任とってもらわなきゃ困るだろ。 「あの話のお姫様は、王子のキスのために ずっと寝ながら待ってたんだから」 end
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