エイプリルフール

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(え、え?嘘でしょ!?) いったん身を離して椅子を回す。 彼の顔を確認すると、確かになぜか 苦しげに涙を溢れさせていた。 (柊が泣くなんて!) 「え、なんで?ごめん!ごめん!」 展開が全く読めない。 何もしてないけど、テンパって 取り敢えず謝る。 「…ッだって、今日、は、」 途切れ途切れの彼の言葉。 (今日は?) 何か特別な日だっただろうか? 心当たりが無く、壁にかかったカレンダー に目をやった。 そこには赤く書かれた文字が。 (あぁ、そうか!今日は、) 「エイプリルフール…」 (まったくコイツは) バレンタインやクリスマスのイベントには 目もくれないくせに。 「ごめん椎名。忘れてたんだ」 しゃがみ込んで、彼の顔を覗き込んだ。 ハラハラと涙を流す彼の手を握る。 「でもさ、俺は嘘でも椎名に、”嫌い” だなんて言いたくないなァ」 普段ツンツンしてるくせに。 エイプリルフールに、好きだって言われた くらいでさァ。 「…ね。椎名、愛してるよ。 だから泣かないで?」 そう言うとやっと、赤くなった目を瞬いて 照れて、はにかむように笑った。 あぁ、もう。 クソ可愛い。 (男なんかに興味無かったはずなのに。 俺の恋人がこんなに可愛いのが いけないんだ) end
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