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聞き慣れた呆れた声が下から聞こえて
視線を落とす。
そこには目つきがちょっとだけ悪くて
平均よりちょっとだけ背が低い人が腕を
組んで立っていた。
「三井先輩じゃないっすか!」
自分のバックに花が咲いたのが分かる。
犬の尻尾がヒョコッと飛び出る気さえ。
「まったく…喧嘩弱いんだから
気を付けろよな。おい、そこのお前」
彼が声をかけた方を見ると、俺を殴ろうと
した先輩が壁に寄り掛かり頭を押さえて
悶えていた。
「こいつを殴りたい気持ちはよーく分かる。
だけどな、こいつ、俺んとこの大事な
商売道具なんだよ。傷付けられたら
困るんだ。悪いな」
え、先輩も俺のこと殴りたいと思ってたん
ですか、という言葉は先輩に「行くぞ」と
手を引かれたから喉の奥に消えていく。
その代わりに『大事』という都合の良い
部分が俺の胸をむず痒くさせた。
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