Shall we dance?

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陽介のリードに身を任せて、俺は足を 動かした。彼が曲を口ずさむのが聞こえる。 こいつダンスも歌も上手いのかよ。 彼のリードは腹立たしいほど優しくて 踊りやすかった。 彼は選ばれた人間なのだと、ふと思う。 俺には縁のないところにいるはずだった のに、どうなるか分からないもんだ。 クルクルと舞うと、スカートが膨らむ。 彼のタキシードの裾がひらめく。 時々パッと目が合うと彼は何故だか 微笑んだ。こんな陽介、俺は知らない。 もっと、お前は俺に冷たくて、毒舌で 表情筋が死んでて、それで。 違いすぎて、俺はもう良く分からない。 「ー疲れたか?」 「え?」 「よく分からん顔してる。休むぞ」 すぐ俺の顔色を察知して、それとなく 気を使う。俺は自分の事で精一杯なのに。 陽介は余裕だ。モテる男はやはり違う。 踊りながら、輪の中心から外れていく。 完全に出ると動きを止めた。 「慣れない靴だしツライだろ。 テラスにでも行くか」 夜風に当たれば冷静になれるかもしれない。 今日は陽介も俺もちょっとおかしい。 頷くと、彼は俺の肩を抱いて俺の歩調に 合わせて歩き出す。 … テラスには、ほとんど人がいなかった。 陽介に置かれたベンチに腰をかけるよう 促される。素直に従うと、彼はしゃがんで 俺の靴を脱がせた。どこまでも今日の彼は ジェントルマンだ。 冬の夜風が心地よく肌を撫でる。 「ホールの中、結構暑かったな」 だから顔も火照ったし心拍数も上がった のだと納得した。 -
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