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「どっからか落っこちる夢でも見てるのか」
ふっ、と笑って彼が言った。
聞いたことがない、柔らかい声。
心臓が違う意味で悪い音をたてる。
(キャラ違くないですか?!)
「…有村、頼むから起きるなよ」
頼むから、と繰り返す。
少しの間。
僕の髪の毛に何かが触れた。
恐る恐る、という感じにゆっくり。
まるで壊れやすい硝子細工に触るようで
もどかしくなる。
優しく僕の髪を梳く手は、大きくて
あったかい。心地よくて本当に眠って
しまいそうだ。
「…いつも嫌味ばっか言って悪いな。
アレは実は本音じゃない」
え?
「こう…面と向かうと自然と何故か嫌味
しか出てこないんだ。自分でも手を焼いて
る。いつもあの後、1人で後悔してるんだ。
もっと優しい言葉をかけるつもりだった
のに、って」
(なんだ。嫌われてたわけじゃないんだ)
よかった…
驚くほどにホッとしている自分。
だって、僕はこの人に認められたい
一心でここまで登り詰めたのだ。
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