停電

3/3
前へ
/310ページ
次へ
交わることのなかった視線が、いま。 俺は思わず立ち止まりそれを受け止める。 ーあぁ、暑い。 その時、光が教室を照らしほぼ同時に雷が 落ちる音が轟いた。 電気が消える。教室が一瞬にして暗闇に 包まれた。悲鳴が所々であがる。早く職員 室に行って確認を、と視線の鎖からと解か れた俺は手探りで廊下に向かおうとする。 すると、俺の左手が誰かに握られた。 「なに、誰?」 問いかけにその人は答えない。 誘導するように引っ張られ、真っ暗の中を 進む。 「なぁ、誰?人違いじゃ、」 「人違いなんかじゃない」 また空が光った。廊下を照らし、その人の 姿が浮かび上がった。 「しろ、やま」 間近にある彼の瞳に宿る光が恐ろしかった。 そしてニッコリ笑う。腰を引き寄せられ 彼に埋まった。 俺は回した手に力を込める。 「俺のこと見てただろ、兄貴」 「うん、見てた」 城山 敦己は、俺の実の弟だ。 end
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

691人が本棚に入れています
本棚に追加