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交わることのなかった視線が、いま。
俺は思わず立ち止まりそれを受け止める。
ーあぁ、暑い。
その時、光が教室を照らしほぼ同時に雷が
落ちる音が轟いた。
電気が消える。教室が一瞬にして暗闇に
包まれた。悲鳴が所々であがる。早く職員
室に行って確認を、と視線の鎖からと解か
れた俺は手探りで廊下に向かおうとする。
すると、俺の左手が誰かに握られた。
「なに、誰?」
問いかけにその人は答えない。
誘導するように引っ張られ、真っ暗の中を
進む。
「なぁ、誰?人違いじゃ、」
「人違いなんかじゃない」
また空が光った。廊下を照らし、その人の
姿が浮かび上がった。
「しろ、やま」
間近にある彼の瞳に宿る光が恐ろしかった。
そしてニッコリ笑う。腰を引き寄せられ
彼に埋まった。
俺は回した手に力を込める。
「俺のこと見てただろ、兄貴」
「うん、見てた」
城山 敦己は、俺の実の弟だ。
end
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