善き哉

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「わッ!」 そのまま前に派手な音を立てて倒れる。 痛い。膝を擦りむいた。格好悪すぎる。 彼はきっとノーリアクションだろうし。 (くそ、恥ずかしい…) 副会長の威厳を保つため、何事もなかった ように立ち上がった時。 「…ぶっ」 耐えかねたように吹き出す声が聞こ えた。 バッと彼の方を見る。 俯きながら口元を手で押さえて、肩を 震わせていた。笑うのは失礼だと思って いるのか必死に止めようとしているようだ が息も絶え絶えである。 「ッごめんなさ、もう、ムリッ」 そう彼は言うと、腹を抱えて軽やかな 笑い声を立てた。聞いてる方が笑顔になる ようなそんな無邪気な笑い方だった。 ツボに入ったらしかった。 「…そんなに笑う?」 「だって、王子みたいな人があんなに 派手に転ぶなんて、可笑しい」 不意を突かれる。なんだいなんだい。 そんな可愛いこと言って。 (あんな仏頂面で『王子みたい』だなんて 考えてたの?) 「王子だって時には転ぶよ」 彼は目尻に浮かんだ涙を拭う。 「あぁ、面白かった。俺って結構ツボ 浅いんです」 さっきのしかめっ面は何処へやら。 今度は恥ずかしそうに笑う彼。 「敬語じゃなくて良いよ。学年は同じ だから」 「分かった。クラスは?活さんと一緒 じゃないの?」 『活さん』 なんだか耳がくすぐったい。 「えっと…確か一緒だったかも」 「本当?良かった」 ふにゃり、と安心した声で言う。 (え、何この子。めちゃくちゃ可愛い んだけど) -
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