コットンキャンディー

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ボロいアパート。2階の右から3番目。 重い足取りで階段を上る。 自分の部屋の前に近付いた時、扉の前に 何かが動いた。 (なんかいる!) なになになに。ストーカー?幽霊? どっちにしろ怖い。照明なんていうものは この建物には存在しないのだ。 「…だい、ち?」 その声は。 「い、いっちゃん…?」 一気に駆け寄る。そこには、扉に寄りかかって 体育座りをした彼がいた。 「なんで、」 状況が飲み込めない俺。いっちゃんは 立ち上がって、スボンについた汚れを 払うように軽く叩く。 「…なぁ、大地。寒いんだけど」 いつもと変わらぬぶっきらぼうな言い方 だけど。拗ねたような声音と欲しがる瞳が 俺に向けられた。 (もう、ほんと。お前って奴は) ガバッと力強く、だけど潰れないよう 心がけながら抱き締める。一ヶ月ぶりの彼。 また少し細くなった気もする。 消えてしまいそうだ。 「会いにきたけど、何か文句あるか」 「マジでいっちゃん愛してる」 「…なんで連絡くれなかったんだよ。 俺、ついに大地に嫌われたかと思った」 彼の指先に力がこもった。服を握られる。 「ごめん」 「お前は、ただ俺を甘やかしてれば 良いんだ」 「りょうかいです。家ん中入りな、ね?」 さぁ、嫌って言うほど甘やかしてやろう じゃないか。 end
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